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気象と季節の言葉


気象と季節の言葉

ウルズン・バガナツ

終戦直後、八重山の学制がまだ整っていないころ、八重山初級高等学校(ジュニアー・ハイスクール)という学校があった。この学校には校歌は制定されていなかったが、高宮広雄先生作詞、糸洲長良先生作曲による『ジュニアー行進曲』があり、校歌代わりに歌われていた。次はその歌の一節である。

 ゆくよ行進ジュニアーの
 紅匂う児らはみな
 足並みそろえ腕かるく
 あたりにそよぎ過ぎてゆく
 あゝウルズンのバガナツの
 押す風に似てさわやかな

この歌詞のなかのウルズン・バガナツとは、沖縄特有の季節をあらわす古い方言である。 その呼び方には、県内の各島々で少々の違いはあるが、ここではジュニアー行進曲で歌っていたとおり石垣市の方言に近い表記を用いることにする。 亜熱帯海洋性気候の沖縄では、短い冬と長い夏だけが目立ち、春と秋の感覚は、極めて乏しい。 ウルズン・バガナツとは、沖縄の冬から夏に移り変わる季節のことである。 最近では、ウルズンに「陽春」を、バガナツに「若夏」という字を当てている。 後者の若夏については、八重山方言で「ワカ」は「バガ」に音韻転化するということで理解しやすいが、前者の陽春はわかりにくい。 全くの当て字である。 ウルズンの語源については、多くの学者の説があるが、まだはっきりしたものはない。 宮良泰平著『八重山方言の素性』によれば、ウルズンは、うるむ(潤む)じぶん(時分)が変化したものだと書いてある。 すなわち、草木が潤う季節を指している。 現在でも与那国島では、2・3月ごろ野山が緑滴る様子をウルムと呼ぶ。 降雨が畑に浸潤していくこともウリィという。 ウルズンのウルの部分は潤むの意であることは確かであろう。 北東季節風に吹きさらされ、疲れたままの姿で冬を越してきた野山の草木は2月下旬の後半からは、寒気の吹き出しの合間を縫って流れ込む南風で、一斉に新芽を吹き出す。 特に、フクギやヤラブの木の若芽は適度な湿りと暖かい南風に育まれ、柔らかく鮮やかな緑となる。 山々の椎や樫の木などの新芽も美しい。
ウルズンとは、このように木々ばかりでなく、万物がうるおい生成され、発展していく季節なのである。 『おもろそうし』や島々の古謡などでは、ウルズンとバガナツは対語として用いられるので、ひっくるめて「初夏の侯」と翻訳したものがある。 しかし、初夏という言葉は、文字どおり夏の初めというだけで味もそっけもない。 それに引きかえ若夏という言葉には、ウルズンに芽吹いた草木が緑を増しておい茂ろうとする活力があり、若さが感じられる。 こんな時節を「バガナツ」と呼んだのは、すばらしい感性ではないか。 バガナツとは、やがてやってくる台風にも、盛夏の強烈な日射にも耐え得るエネルギーがすべてのものの体内に培われていく季節なのである。 私は、このような活力に満ち、溌刺とした生命力を保持しているすばらしい季節の方言を大事にしていきたいと思う。


台風の季節

熱帯の海では真冬でも台風は発生するが、やはり発生数の多いのは6月から10月の暖侯期である。沖縄県に影響を及ぼす台風はほとんどこの期間内に来襲する。8月は、台風の発生数、沖縄への接近数が最も多くなる月である。 台風とは、北太平洋南西部に発生する暴風雨であるが、世界には台風と同じ種類の熱帯性の低気圧があり、地域によって別の名称がついている。カリブ海に発生し、アメリカを襲うものはハリケーン、インド洋に発生するものはサイクロンと呼ばれる。また、オーストラリアでは、ウイリー・ウイルズと呼ばれているが、これは台風などよりも規模の小さなものらしい。 ハリケーンと同様に、8月は活発な台風来襲期。この月の台風は沖縄近海で迷走したり、とてつもなく発達したりするものが多く、全く気のゆるせない月である。油を流したようにドローンと照り輝く海面が、やがてゆっくりとうねりだし、島の裾礁に浪が砕けはじめる。遠雷のような海鳴りが、しだいに大きくなり、風は大きく息をしながら北東に変わる。無気味な夕焼け。大型台風の接近の兆しである。
台風の観測もずいぶん進歩した。各地にレーダーが設置され、1977年からは気象衛星ひまわりによる常時監視が行われている。いまでは台風の中心位置も数キロの誤差で観測できるようになった。しかし、台風の進路予測は、数値予報という方法で、大型コンピュータを駆使して行われるが、まだまだ精度は十分とはいえない。台風情報で「予報円」が示されるが、予想時刻に台風がこの円内に入る確率は70%程度。このことを勘案して十分な対策を講じなければならない。
茅葺きの屋根に古い魚網を被せたり、竿竹で家の内と外から雨戸を縛り付け、四隅の柱を棒で支えるような防風対策の光景は、もう今では、ほとんど見受けられない。アルミ・サッシや鉄扉、コンクリートの直方体の強固な建物が、人々を台風から遠ざけてしまった。しかし、台風災害の起こり方も、社会の変化とともに進化してくる。
August―looK out you must
8月―見張りはよいか。

魔の9月26日

これは、本土のマスコミがよく使う言葉である。
新聞の見出しには格好なもの。実はこの日は、日本に大型台風が襲来しやすい「厄日」なのである。偶然にもこの日には、キラー・タイフーンが多かった。日本に未曾有の災害をもたらした洞爺丸・狩野川・伊勢湾台風などは、「魔の9月26日」に襲来していたのである。
 日本本土に襲来して顕著な被害を及ぼす台風は、図が示すとおり、
(1)7月下旬から次第に多くなり、9月中旬にピークがある
(2)9月下旬までは多いが、10月からは激減する
(3)過去65年間では、5月下旬や11月下旬にもまれではあるが来襲している。

9月中に顕著な台風に見舞われている日を調べてみた。
(1)9月中に台風に見舞われやすい日には、2つの大きな山がある。
  17日のピークと「魔の26日」。
(2)5日と22日前後には、台風の襲来しにくい日があり、これもまた顕著である。

古くから「二百十日」は、台風来襲の厄日として注意されてきた。この日は、立春から数えて210日目ということで、大体、9月1、2日に当たることになる。「防災の日」は、関東大震災だけでなく二百十日のことも勘案して制定されたという。しかし気候変動のせいか近年の台風は、二百十日や二百二十日よりもかなり遅れて、227日か236日にずれ込んでしまったようである。
September,―Remennbar
9月―油断するな!!

台風と中秋の名月

旧暦8月15日は「中秋の名月」である。
現行の暦では、十五夜の日付は、9月8日から10月8日の間を移動する。秋の満月のころは、1年中で最も潮位が高くなる。とくに旧暦8月15日の満潮は高く、初潮とか葉月潮、望の潮と呼ばれ、季語としても、よく用いられる。9月は大型台風来襲の季節である。気圧が周囲より1ヘクトパスカル低いと、海面は1センチ盛り上がる。台風圏外を1010ヘクトパスカルとして、940ヘクトパスカルの中心近くでは、気圧の低さだけで海面は70センチも膨れ上がっている。その盛り上がりが、台風と同じ速度で動いてきて湾に入ると、一層膨れ上がる。さらに暴風が海水を陸に吹き寄せ、これに高波が加わって、海水がドッと陸地に駆け上がってくる。これが高潮である。(風津波ともいう)十五夜の前後に来襲する台風では、高潮に十分警戒しなければならない。中秋の名月と台風災害は高潮という現象を通じて密接に結びついているからである。高潮は、めったに起こる現象ではないが、最も恐ろしい自然災害である。
沖縄では、最近、台風に伴う高潮で死者が出たという例は少ない。しかし、琉球の正史『球陽』には、「中秋の名月」の前日、沖縄本島に台風が襲来し、中城湾一帯に高潮による大災害をもたらしたという記録ある。この記録の災害の起こり方を検討してみると、台風の中心は、沖縄本島の南部地域を南東から北西に通過していったものと推測される。
長い年月の間には、恐ろしく強い台風もくるものである。古い記録を調べることは、あながち学者の物好きだけではなく、将来の防災対策を考える場合の基礎となるのである。
「葉月潮」とか「望の潮」は美しいが、高潮という恐ろしい裏面のあることも忘れてはならない。


片降り(カタブイ)

日本は雨の多い国である。
大陸と大洋の境にあり、低気圧の通り道で四季の変化に富み、しかも地形が複雑だから、雨の降り方にもいろいろある。雨の強さや降り方も、季節によって表現が違う。雨に関する言葉は非常に多い。強さの違いでは、微雨、細雨、小雨、並雨、強雨、豪雨、集中豪雨、篠をつく雨、車軸を流すような雨などである。雨の降り方の時間的な変化では、俄雨、畷雨、村雨、夕立、通り雨、長雨、霧雨、地雨などがある。天泣、狐の嫁入り、雨氷、霙、凍雨、泥雨などは特殊な雨。大気の下層から上層まで風が弱く、気層が不安定のときには、視界内のあちらこちらに雄大積雲が発達して雨を降らせている。こんなときには、ほとんど雲が動かない。まわりには暗い雨脚が垂れ下がっているのに、自分のいる所は晴れていて、無風となり湿度も95%を超える。肌はべとつき、耐え難い蒸し暑さとなる。片降り(カタブイ)しているのである。
片降り(カタブイ)とは「風死す」十「炎熱」十「湿暑」十アルファーに、視界内には、必ず降雨域が存在するという気象状態をいうのである。片降り(カタブイ)という言葉は、沖縄の雨の降り方を表現した独特なものである。ほかの地方には、こんな表現は見当らない。もちろん片雨とか片時雨などのように名詞的な使い方はあるが、片降りというように動詞的に表現しているのが特異なのである。広辞林には、偏降り(かたぶり)という語があるが、それは雨降りの日ばかりが偏って続くことであり(カタブイ)意味が違う。片降り(カタブイ)は、亜熱帯海洋性気候に特有な現象。

春日和と小夏日和

小春とは、旧暦10月の異称である。いまの暦では、11月ごろに当たる。本土では、晩秋から初冬にかけてあらわれるおだやかな暖かい日よりを「小春日和」と呼んでいる。小春凪、小春空なども季語として親しまれる。11月は、暦の上では初冬だが、沖縄では、まだ晩秋である。天気は周期的に変わり、一雨ごとに気温がさがっていく。10月にくらべると、北よりの季節風は長く吹き続かないし、風もそれほど強くならない。大陸高気圧は腰が落ち着かず、すぐに移動性高気圧となって日本付近に出てきてしまう。この高気圧におおわれると、沖縄地方でもおだやかな晴天が、数日も続くことがある。はじめの2、3日は爽やかで良いが、そのあと、風が南寄りになると、気温はぐんと高くなり、日中は真夏のぶり返しのような暑さとなる。こんな気圧配置は、本土の「小春日和」に相当するものだが、亜熱帯の沖縄では、まだ陽射しが強く、少々暑すぎて「小春日和」という感じとは、ほど遠い。
沖縄本島地方では、こんな日よりを「十月・夏小」(ジュウガチ、ナチグワァー)と呼んでいる。先島地方でも「十月夏」ということばが残っている。「沖縄の季節カレンダー」(北村伸治編)には、この「十月夏小」のことを「小夏日和」と書いてある。「夏小」(ナチグワァー)をひっくり返して「小夏」にしただけであるが、方言の共通語化として、なかなか適訳であると思う。「小夏日和」は元石垣島地方気象台長、北村仲治氏の造語である。復帰の翌年、沖縄で開かれた特別国体の略称が「若夏国体」だったことから、若夏という沖縄の方言が、本土の人々にも次第になじまれていった。小夏日和も沖縄の気候的特性をよく言い表わした季語であると思う。小夏日和とか若夏のように、私たちが日ごろ使っている沖縄方言の季語を、巧みに、しかも数多く共通語化して、国語に生命力を注入し、その血行の新鮮さを保たせたいものである。



プロフィール

正木 譲

正木 譲(まさき ゆずる)
1934年(昭和9)登野城生まれ
1954年より石垣島地方気象台勤務
1969年与那国島測候所所長
1986年沖縄気象台予報官
1991年沖縄気象台観測課長
1993年那覇航空測候所所長
1994年南大東島地方気象台台長で定年を迎える。


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>八重山関係文献目録 ―自然編―

(情報やいま2000年8月号より)

 


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