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東さんちは「台湾」がいっぱい

文・写真 = 松田良孝

 去年8月24日は旧暦の7月15日に当たり、石垣市嵩田地区に住む台湾系2世、東金三さん(1952年生)のお宅ではビーフンや田芋の煮物など10数点のお供えを用意し、お盆の行事を行った。八重山では旧暦7月13日から3日間、旧盆の行事を行う慣わしだが、東さん宅では、台湾で行われているのにならい、旧7月15日だけ行っている。
 東さん宅では、台湾的なものに触れることができる。
 緩やかな起伏のある農場には、茎が太くて赤紫色をしたサトウキビ。八重山では見かけない種類だ。「時々食べたくなるから」という理由で東さんが台湾から持ってきた。試しに噛んでみると、どこか土のにおいのする甘い汁が口の中にじわっと広がる。田んぼにも「台湾」がある。田芋は、父、宏発さん(*1)が台湾から持ち込んで以来、栽培を続けている。別の田んぼには台湾からのマコモ。植物防疫でその苗をチェックしてもらってから植えつけた。
 台湾的なものであふれている東さん宅を象徴する行事の一つが旧盆だと言っていい。
 あらためてお供えの様子を見てみよう。25年前に台湾からやってきた妻、昌代さん(1955年生)=日本国籍取得前の台湾名・銀鳳さん=が「台湾でおかあさんがやるのを見ていた」というそのやり方でお供えをしていく。昌代さんは基隆生まれの台北育ちだ。
 台湾式にお供えを準備するのであれば、鳥と豚、魚の3種類は基本だ。鳥は、神様のために丸ごと供えたあと、切り身にしてから仏前に供える。
「まな板も、包丁も、どっちも台湾のものだよ」。丸ごとの鳥を切り身にしながら、金三さんが言った。丸太を輪切りにしたまな板はどっしりと重い。刃の部分が丸く膨らんだ包丁を、東さんがそのまな板のうえに落としていく。「トンッ」という鈍い音がするたびに鳥の骨が断ち切られていく。イノシシを捕る知人がその包丁をほしがったというのも分かる気がした。
 東さん宅では、この鳥を自分で飼っている。「朝まで元気だった鳥だから、新鮮だよ」と金三さん。農場の一角を金網で囲い、そこに鳥たちを放している。ニワトリやカモだけではなく、七面鳥が尾羽を丸く広げていたりする。節目が来ると、石垣島に住むほかの台湾出身者に鳥を丸ごと煮たものを頼まれることもあるとか。お供え用だ。
 台湾出身者が節目ごとに供え物にする鳥は、東さんの農場のようなところで育てられているので、自給の輪がきちんと回っている。供え物の手配は、この輪があって成り立っている。
 東さん宅でみられるこの「輪」がプライベートなものだとすれば、パブリックな「輪」というものもある。台湾と八重山を結ぶ定期航路がそれだ。いや、訂正しよう。かつては結んでいたのだった。

 八重山に暮らす台湾系の人たちが、台湾との関係を維持していくための「輪」は2008年6月、大幅に細められることになった。八重山と台湾とを結んでいた有村産業のフェリーが運航停止となり、空路に頼るしかなくなったのだ。
 石垣港から出国(*2)した台湾人の人数を法務省の統計(*3)で見てみると、有村産業のフェリーが運航していた時期は毎月二ケタ以上が出国していたのに、運航停止後は1ケタという月がざらにあり、ゼロという月もあった(*4)。
 金三さんは「有村産業のフェリーがあったときは年3回ぐらい里帰りできたけど、今は年に1回」と苦笑する。空路でもおととしから石垣発台湾行きの直行チャーター便が飛び始め、わざわざ那覇まで行って、そこから台湾行きの定期便に乗り換えるという手間はかからなくなったが、それでもフェリーに比べると割高だ。
 去年の旧盆では、昌代さんの姪が夏休みを使って一家4人で台湾から遊びに来ていたが、フェリーがあったころは「親戚15人が一度に来て、パインの収穫を手伝ってくれたこともあるよ」(金三さん)というほどの賑わいがあった。
 深刻なのは手荷物の問題だ。
 東さん宅では旧盆のとき、無縁仏にも、仏壇と同じような規模で供え物を用意するのだが、そのための丸テーブルは台湾から購入したもの。農機具小屋に備え付けてある燻製をつくるための道具も台湾から。「同じものでも台湾製のほうがいい」という金三さんのこだわりだ。
 こうしたものはフェリーなら難なく運べたが、飛行機で運ぶとしたら、手数料が上乗せされ、高い買い物になってしまう。
 段ボール入りのビーフンや、細長い独特の線香、神仏にささげる紙銭、邪気をはらう爆竹。石垣島に住む台湾系の人たちのなかには、こうしたものを台湾から手に入れて節目ごとの祈願を続けている人が少なくない。プライベートな「輪」で供え物を用意できる東さんのような人でも、パブリックな「輪」が切れてしまうと、出身地・台湾とのつながりを維持するのに苦労させられるのだ。

松田良孝プロフィール
八重山毎日新聞記者。『八重山の台湾人』(2004年/南山舎)で第25回沖縄タイムス出版文化賞(正賞)を受賞。『台湾疎開』(2010年/南山舎)は、新聞労連第14回ジャーナリスト大賞を受賞した『八重山毎日新聞』の連載記事「生還ひもじくて “八重山難民”の証言」を単行本化したもの。


 


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